テレビ局の手口

 あるテレビ局がザトペックと私両方をインタビューすることになっていた。その後考えを変え、ザトペックだけインタビューしたいと言ってきた。しかしアバリタは、
「いえ、ザトペックさんは私たちの招待でチューリッヒへ来られたのです。先生が一緒にインタビューを受けられないのなら、ザトペックさんだけをそこへ行かせるわけにはいきません。」と言い、キャンセルした。

 するとそのテレビ局のならず者たちは、
「考えを変えました。お二人ともいらして下さい。」と言ってきた。 10時ごろにテレビ局に着くと、メインスタジオへ連れていかれた。15分後にテレビに出ることになっていた。若い女性が来てダナとザトペックの顔におしろいを塗ると行ってしまったので、ピンときた。
「はめられたな。」
そして立ち上がりアバリタに、
「私もインタビューに出るのかどうか、聞いてきなさい。」と言った。 アバリタが聞きに行くと、
「それが、考えがまた変わりまして、ザトペックさんと奥さんだけお願いします。」と言われた。

 スタジオはライトで本当に暑かったので、同じ建物内にある別の部屋へ行こうと試みた。インタビューをもっと心地良い場所で見たかったからだ。しかしアバリタがやってきて、
「グルがいなくなってしまわれたら、すごく変です。どうかここにいらして下さい。」と言われた。
「わかっているが、本当に暑いんだ。」

 すると司会者が、
「特別にお席を御用意しましたので、いらしてください。」と言ってきた。
特別席とは、スタジオ内で拍手だけするサクラのいるところだった。この番組を見に来た人たちが6、70人ほどいたのだが、私が誘導されて最前列に座るとすぐに、冗談を言ったり叫び声をあげたりいろいろなことをしだした。幸いなことに何を言っているのかはわからなかったが、まるで今しがた動物園から連れてこられたかのような振る舞いだった。テレビで見るサクラと全く同じような感じで嘲笑したりいろいろしていた。番組ではザトペックと奥さんがインタビューを受けている間、彼のヘルシンキでのパフォーマンスを見せていた。ある時点でザトペックは話を遮り、私のことを話し始めたのだが、司会者はすぐに話題を変えた。しかしザトペックが私の名前を言うと、カメラは2秒間私を捉え、映した。視聴者は2秒間私を見たと言うことだ。残りの時間は全てザトペックについてだった。私について話すことさえ番組は許さなかった。

 全て終了後、すぐにザトペックに掴まれた。本当に悲しそうに、悲痛な表情で、
「貴方は実に実に素晴らしい、創造的な方です。」と言った。
「どうしようもないでしょう。ザトペックさんが悪いのではありませんよ。全てこれでよいのです。」