離陸の前に

 ファーストクラスの最前列に座っていたのだが、スチュワーデスの1人に、

「離陸して飛行機が飛び始めるまで、前に置かれているお荷物をお預かりしますね。離陸が終わりましたら、またお返ししますので。」と言われた。

 それで鞄を彼女に手渡した。その後でフライトが20分遅れるというアナウンスがあったので、先程の鞄から本を取りたいとスチュワーデスに言いに行った。すると背の高い男性がやってきて私の前に立ち、聞かれた。

「先生、先生、どうして昨日ハーフマラソンを走られなかったのですか?」

「400メートル走もできなかったのだから、ハーフマラソンはとても無理でした。」

「先生の主催するレースは本当にいいですね。早朝に行うのがいいんです。いつもエントリーします。私は早朝に走るので。」

 ここではハーフマラソンが午後3時半にスタートしたので、彼は走らなかったのだと言う。プエルトリコ人なのに! プエルトリコ人はこの暑さに慣れているものなのに。

 だから皆わかったでしょう。早朝にレースをスタートしたらそれを嬉しく思い感謝する人が、少なくとも1人はいるということだ。

「先生の生徒さん、お弟子さんはほんとに良い方たちですね。」

 別のスチュワーデスがたまたまそこに立っていて、

「先生がいいと弟子もいいのよ。」と言った。そして、

「先生、先生の開かれる集まりに何度も行きました。でも今は前とは変わってしまいましたね。瞑想中とても遠くにいるような気がします。いいんですけれど、どこか別のところにおられるような… 今はこうやってお話ししていますけど。」

「その時は瞑想しているのです。」

「はい、だからとても遠くに感じるのですね。」

From:Sri Chinmoy,挨拶(1〜4), Agni Press, 1981
https://ja.srichinmoylibrary.com/slt_1 より転用